色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹著、文藝春秋)を読む。
姓に色の名が含まれている4人の友人と色の名を持たない主人公の現在と過去が、一人の友人の死の謎を探るうちに繙かれていく小説。仲のよかった友人たちから突然交際を絶縁され、一時自殺を考えるまでに至ったつくるは、恋人の沙羅にも勧められ十六年経った時から、突然の絶縁の謎を探りだす。
謎の提示に始まり、主人公が答を探しながら自分なりの解答を見つけていくという筋は、過去の作品によくみられる展開であるが、今回は派手さがなく静かに、『巡礼の年』という曲を背景に流れていく。そこには作者独特の、開いた傷への触れがたさと共通する感性がある。それは”やさしさ”という言葉で表現するには複雑すぎる色彩を帯びている。
小説として楽しめたかというと、学生時代の友人との絶縁の原因を十六年も経ってから探り出すという設定にはややなじめなかったのと、それが主人公へのトラウマになったというのは理解できるが、あの震災という現実を経験した後では、何か物足りなさを感じてしまった。それと挿話のように描かれている性夢は今回の小説では逆効果のように感じた。全体にもう少し書き足してふくらませた方がよかったのではないかと感じる。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年