『ヴェールの政治学』(ジョーン・W・スコット著、みすず書房)を読む。
2004年にフランス政府が成立させたいわゆるスカーフ禁止法(宗教的帰属を「誇示的に表徴するもの」の着用を公立学校で禁止する法律)について、その経緯と法律が抱える矛盾を考察する本。一見西洋対イスラムの構図でとらえられがちなこの問題には、フランスという国の成立の根幹にかかわる「平等」という概念ののど元につきささった骨のように危うく、その病根は根深いことが本書を読むとよく分かる。著者は、人種主義、世俗主義個人主義セクシュアリティという観点から考察することにより、スカーフを禁止するフランス政府の立場に内在的な矛盾があることを鋭く指摘している。ジャン=リュック・ナンシーを引用し、著者は「共通する存在であること」が問題ではなく、「共同での存在であること」が重要であり、そうした考えを表明することが「同質性をナショナル・アイデンティティと同一視する諸国への批判である」と述べている。ライシテについての議論も、同じく公的教育の場で脱宗教性が求められている日本の私sたちにとって参考になる。また、女性がまとう「ヴェール」と「ひもパン」との対比とそれぞれがフランス社会で担っている意味についての記述も興味深かった。

ヴェールの政治学

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