人質の朗読会』(小川洋子著、中央公論社)を読む。
2012年の本屋大賞を受賞した小説を1年遅れ(発刊からは2年)で読む。海外ツアーに行った邦人8人が現地のゲリラによって人質になり、そのまま帰らぬ人々となった事件の後で、公開された8人の朗読会の記録という形で展開される小説です。インテリアコーディネーター、調理師専門学校教授、作家、医科大学眼科学教室講師、精密機械工場経営者、貿易会社事務員、主婦、ツアーガイドと職業も経歴もさまざまな人々が語り出す不思議な物語は、彼岸の世界から送られ(贈られ)、そのひとつひとつが静謐な重たさをもって心の底に沈んでいきます。生きて還ることができないかもしれないという時間の中で語られる物語の中には、どこか奇妙な明るさが宿っていることに気づかされます。私のお気に入りは『コンソメスープ名人』と『死んだお婆さん』の物語でした。
それぞれの物語は、それだけ取り出して読んでもいい短篇小説のお手本のような物語です。これらを人質となって亡くなった人たちの物語としてまとめたところに著者の小説家としての見事な手腕を感じます。

人質の朗読会

人質の朗読会