脳科学革命』(ポール・サガード著、新曜社)を読む。
人生にとって、仕事と遊びと愛が重要であるというのが本書の基本的メッセージですが、これを考えるにあたって脳についての生物学的知見にもとづくことがもっとも重要で実りも多いのだというのがポイントです。著者はこの主張を裏付けるために、知識を得るためには、証拠にもとづく説明が信仰より信頼性が高く、意思決定をする際には最良の計画への推論が欠かせないことを説明していきます。またこの自然主義は、単純な還元主義によるのではなく、脳と社会との関係は重層的に決定されているという立場をとっています。心のはたらきは脳という進化の産物が生み出す概念パターンであり、客観的自然を基礎になりたっているので、幸福や道徳についてそれらを無視する宗教や哲学の思考実験は役に立たないと否定します。宗教に意味をおく人や生物学や心理学の成果を無視する哲学者にとっては受け入れがたい主張だと思われますが、自然科学の立場からみるときわめて妥当な主張です。しかし何分まだ脳についての科学的知見は少ないので、倫理学や数学的概念についてははっきりとした結論は下せませんが、解明される日がくることでしょう。自然の産物である脳から出発した人生の意味(仕事、遊び、愛)についての考察は、説得的で心を落ち着かせさえします。

脳科学革命: 脳と人生の意味

脳科学革命: 脳と人生の意味