読書

『群れはなぜ同じ方向をめざすのか』(レン・フィッシャー著、白揚社)を読む。 自然界の中には単純な規則によって目を瞠るような美しいパターンが生成すること(自己組織化)があるが、私たちの社会にも個人間の比較的単純な規則から動的な秩序が生まれ、う…

『ミーナの行進』(小川洋子著、中公文庫)を読む。 父親が病死したため母方の叔母の家に預けられることになった主人公がそこで出会ったミーナと過ごした一年間の物語。主人公が中学1年の1972年から73年という時代設定でちょうどミュンヘンオリンピックが開…

『寡黙な死骸 みだらな弔い』(小川洋子 中公文庫)を読む。 さまざまなかたちの死をテーマにした連作短編集。各短篇は独立した物語でありながら他の短篇とところどころで関連性をもっており、誰かの死はどこかで自分とつながっているという思いを抱かせる。…

『世界を救う処方箋』(ジェフリー・サックス著、早川書房)を読む。 世界の貧困問題の第一人者が祖国アメリカが抱える問題を指摘し、その処方箋を提示する本。冒頭に「アメリカの経済危機の根底には道徳の危機がある」と指摘し美徳の衰退を問題視している。…

『世にも奇妙な人体実験の歴史』(トレヴァー・ノートン著、文藝春秋)を読む。 猛毒をもつ河豚を最初に食した人間が誰かは誰も知らないが、誰しもその勇気に感心する。河豚を食する知識は今受け継がれて私たちは恩恵を受けているのだが、それと同じというよ…

『寅さんとイエス』(米田彰男著、筑摩書房)を読む。 映画『男はつらいよ』の主人公寅さんとイエス・キリストという一見無関係にみえる両者の共通性を考察しながら、功利性とは離れた無用性の知恵を語るユニークな本。聖書は子どものころから折に触れて読ん…

『数学でわかるオリンピック100の謎』(ジョン・D・バロウ著、青土社)を読む。 今日NHKスペシャルミラクルボディー 第1回「ウサイン・ボルト 人類最速の秘密」が放映されていたが、本書の最初の話題が、「ウサイン・ボルトはどうすればこれ以上速く走ら…

『トクヴィルの憂鬱』(?山裕二著、白水社)を読む。 フランス革命後のロマン主義時代を生き抜いたアレクシ・ド・トクヴィルの自己の理想と現実の隔たりからくる憂鬱がどのようなものであったのかを政治・文化情勢の変遷とともにみごとに描き出している。旧…

『小川洋子の偏愛短篇箱』(小川洋子編著、河出文庫)を読む。 作家の小川洋子さんによる短篇アンソロジーで、2009年同社より発刊された単行本を文庫化したもの。不気味な味の短篇から細かい人間模様を描写した名品までさまざまな短篇が「箱」に収められてい…

『マイクロワールド』(マイクル・クライトン著、早川書房)を読む。 早逝が惜しまれた作家の遺稿をノンフィクション作家リチャード・プレストンが完成させたSF作品を堪能した。かつて『ジュラシック・パーク』では、巨大な恐竜に恐怖した読者は、今回自然界…

『貧乏人の経済学』(A.V.バナジー&E.デュフロ著、みすず書房)を読む。 貧困層はなぜ貧困から抜け出せないのか、援助は有効なのかむしろ自立を阻害するので有害なのか、経済的援助を行う場合に常に問題となる議論を、大所高所の概念論ではなく自らが集めた…

『猫を抱いて象と泳ぐ』(小川洋子著、文春文庫)を読む。 生まれつき上唇と下唇がくっついているという奇形を持って生まれた無口な少年がふとしたことからマスターとよばれる男からチェスの手ほどきを受け、やがてリトル・アリョーヒンと呼ばれるようになる…

『遺伝子と性行動』(山元大輔著、裳華房)を読む。 脳神経系の構造と機能の基本デザインは遺伝子で規定されており、行動を引き起こすものが神経系であるのなら、生物の行動の基本パターンは遺伝子によって規定されているはずだ。本書はショウジョウバエにお…

『謎の物語』(紀田順一郎編、ちくま文庫)を読む。 短篇小説の醍醐味は結末の意外性や斬新さに依るところが大なのだが、最後が読者の想像に任されたり、謎が解かれず終いだったりするいわゆる「謎物語(リドル・ストーリー)を集めた一冊。この形式はこの本…

『それをお金で買いますか』(マイケル・サンデル著、早川書房)を読む。 ハーバード白熱教室で有名になったサンデル教授による市場主義の問題を論じた本。まず序章に出てくる実例を読んで日本人の私は驚く。以下はお金で買えるのだ:刑務所の独房の格上げ、…

『神道とは何か』(伊藤聡著、中公新書)を読む。 古代から近世までの神道の歴史を仏教との相互作用の中でどのように展開したかを概説した本。古代における神仏習合のいきさつから始まって、中世における神道と仏教との関係すなわち神仏習合のことを説明して…

『老化の進化論』(マイケル・R・ローズ著、みすず書房)を読む。 ショウジョウバエの選択育種により通常の寿命以上に(約10%)長生きさせる個体(メトセラバエ)を選択することに成功した進化生物学者による研究の軌跡を記した本。著者は進化のしくみを利…

『知識と経験の革命』(ピーター・ディア著、みすず書房)を読む。 17世紀に起きた科学革命はどのようなものであったかを16世紀の科学と対比させながら解説する本。巻末の解説によれば、本書は、アメリカ科学史学会が英語で出版された一般読者向けの科学史を…

『意識は傍観者である』(デイヴィッド・イーグルマン著、早川書房)を読む。 神経科学を専門にする著者は、本書で脳という精巧な器官は、意識下で多くの仕事を並列で処理していること、それはつまり自分だと意識している「自分」とは、すべてを知っているオ…

『居心地の悪い部屋』(岸本佐知子編訳、角川書店)を読む。 巻末に訳者が書いているように、「うっすら不安な気持ちになる小説」を集めた短編集。「どこかに行こうとして電車に乗るのだけれど、乗りまちがえて全然ちがう場所に着いてしまう」ような感覚を、…

『日本語雑記帳』(田中彰夫著、岩波新書)を読む。 メディアの言葉や外来語、方言、漢字などにまつわる豊富な話題を集めたエッセイで、随所に楽しい話題がちりばめられている。例えば方言については、東日本と西日本の方言の違いはよく取り上げられる話題だ…

『フラクタルの物理(I)基礎編』(松下貢著 裳華房)を読む。 『枝分かれ 自然が創り出す美しいパターン』(早川書房)を読んだとき、フラクタルに関することをもう少し詳しく知りたかったときに、出会った本。著者が大学学部や大学院で講義する際のノート…

『効率と公平を問う』(小塩隆士著、日本評論社)を読む。 とかく効率性ばかりを論っているように思われる経済学のもう一つの重要な柱である公平性とは何か、そして今の日本ではどのようなところに不平等があり、それをどう是正していくべきかを論じた本。経…

『罪悪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ著、東京創元社)を読む。 前に読んだ『犯罪』の奇妙な読後感が忘れられず、読んでみた。刑事弁護士である著者の筆致は相変わらず淡々と罪に落ちた人とその状況を語る。法が人を裁くことで事件は一応の決着が…

『孤独の科学』(J.T.カシオポ&W.パトリック著、河出書房新社)を読む。 孤独とはもちろん、単に独りでいることではなく、自分が一人きりだと感じていることだが、このつらさは身体的な痛みを感じる情動反応と同じ脳の部位が感じているという。著者は、孤独…

『枝分かれ』(フィリップ・ボール著、早川書房)を読む。 「自然が創り出す美しいパターン」シリーズの最終巻。ここはエピローグから著者の言葉をまず引用する。 一握りのなんでもないプロセスをエレガントにかう微妙に変化させたり組み合わせたり修正した…

『しあわせ仮説』(ジョナサン・ハイト著、新曜社)を読む。 「しあわせ」とは何かについて社会心理学者の著者がポジティブ心理学の立場から考察した本。ポジティブ心理学というのは、人間の長所に重点をおいた心理学で個人の病理より長所をのばす方法論に関…

『隠れた脳』(S.ヴェダンタム著、インターシフト)を読む。 私たちの脳には、物事をヒューリスティックに処理する脳と理性的に処理する脳があり、前者によってうまく行く場合もあるもののときにはとても不合理なことが起きる場合があることをさまざまな例を…

『喜びはどれほど深い?』(ポール・ブルーム著、インターシフト)を読む。 飢えを満たす、セックスをするといった動物と共通した快楽から芸術鑑賞や宗教、マゾヒズムなど人間ならではの快楽に至るまで様々な快楽を人間は貪るが、その喜びはどこからくるのか…

『恋するオスが進化する』(宮竹貴久著、メディアファクトリー新書)を読む。 生物の生殖と進化について昆虫を主題にして解説した本。著者は沖縄でウリミバエの駆除に10年間携わっていた研究者で、ところどころに研究生活の悲喜こもごもが語られているのが微…