『猟奇博物館へようこそ』(加賀野秀一著、白水社)を読む。
タイトルからするとエロとグロを主題にした読み物かのように誤解される向きもあるかもしれないが、内容は人体内部を眼差そうという欲望がどのように具象化されてきたかを主に西欧の博物館を巡りながら紹介していくという書物。”あらざらぬ”ものとしてある人間の死、人体の内部、人体の奇形を”ある”ものとして再現し、保存する営為・・・ここから近代解剖学、病理学が生まれてきた。現在目にする無機質で即物的な解剖模型の過去には、より生きている状態に近い死体を表現しようという意志が働いていたのだということが本書を読むと分かる。今より生は死に近かったのであり、死は生に寄り添っていたのだ。同時に死の中に聖なるものを読み取っていたことも聖遺物の数々をエピソードを読むと分かる。こうした心性は、今の私たちからすれば確かに「猟奇」的なものなのかもしれないが、当時としてはなにかもっと神々しさを宿した何かであったと思われる。語り口もやや香具師的なところがあるので、表面だけを読み流すと単なる興味本位の珍奇な本にとられてしまいがちだが、奥はもっと深い。個人的には後半の解剖学蝋模型にまつわる数々のエピソードや知られざる人物の紹介をたいへん興味深く読んだ。

猟奇博物館へようこそ ─ 西洋近代知の暗部をめぐる旅

猟奇博物館へようこそ ─ 西洋近代知の暗部をめぐる旅