『なぜ人はキスをするのか?』(S.カーシェンバウム著、河出書房新社)を読む。
原題は「キスの科学」であり、ヒトがキスをする理由をティンバーゲンの至近要因と究極(進化)要因から考察してみようという本。第1部では人類の歴史のみならず動物においてもキスは普遍的な行動であることが示され、キスには生物学的・遺伝学的要因と文化的・環境的要因が影響するという妥当な結論。第2部からキスの直接の動機やそれが身体および精神に与える影響について紹介している。興味深かったのは第6章で、男性と女性それぞれでキスの意味合いがずいぶん違うということだ。

女性は配偶者になりそうな男性を評価したり、長いつきあいを開始したり、二人の関係を維持したり、検討したりするのにキスはもってこいの方法と見ている。(中略)女性は健康そうな歯に対して男性よりも関心を持ち、性的関係を結ぶ前でも関係している間でも後でもキスの経験を重く見る。
 女性に比べ、男性は無頓着といってもいいくらいキスにあまりうるさくない。キスより興味があるのは魅力的な顔と体つきだ(中略)概して、男性はデート期間を問わず、恋愛関係でキスをさほど重視しない。

女性はキスを「一種のリトマス試験紙のように」扱い、男性は「女性の性的受容の手がかりを手に入れたりするときの手段」として使っていると著者は述べる。」
第10章のキスの脳科学研究を紹介しているが、一定の結論を出すためにこれからの研究を待たねばならないというところ。
進化学的には繁殖行動において互いの相性を探り合う探査子として進化してきたということだろうが、それではなぜそれがキスかというと視覚や嗅覚、味覚、触覚を駆使して相手の健康状態と相性を唾液中のさまざな化学物質なども含めて総合的に判定する上最も適していたからというところだろうか。
最後の第3部ではごていねいにキスを成功させるポイントを10挙げてくれているのは、いかにも科学に実利を求めるアメリカならではか。ちなみに最後のポイントは「たびたびキスしよう」だ。

なぜ人はキスをするのか?

なぜ人はキスをするのか?