『ギャンブラーの数学』(J.メイザー著、日本評論社)を読む。
 賭け事の必勝法を説いた本ではなく、賭け事の偶然について、歴史と数学、心理の三つの視点から考察した本。歴史を遡れば人間は古くから骰子遊びに興じていたようだ。この感じが骨偏であるように動物の距骨は骰子代わりだったようだ。リスクを負うということは人間固有の普遍的特性だったのだ。時は下りそれを数学的に解明するのに貢献したのがパスカルフェルマー。前者が主役のように書かれているが、後者が中心だったことはキース・デブリンの『世界を変えた手紙』を読むとわかる。そしてギャンブルをするときにまず理解しておかなければならないのがベルヌーイの弱い大数の法則(εを任意の小さな正の数として、Nを大きくすると、P[|k/N-p|<ε]]が1に収束する)の正しい理解。第二部ではさまざまな賭け事の数学をやさしく解説している。これからするとロトくじに金をかけるのは最低ということ。最後の心理の講ではなぜ人がギャンブルに中毒してしまうのかということについてドストエフスキーの『賭博者』を引用しつつ認知心理や神経科学の知見から解説している。この報酬系があったからこそ人類の進歩もあったのだとは思うけれど、偶然を飼い慣らせるという信念は人間の宿痾なのだろうか。本書を読んだら最近出た『確率と曖昧性の哲学』にも食指が動く。

ギャンブラーの数学―運をうまく使いこなすにはどうしたらよいか?

ギャンブラーの数学―運をうまく使いこなすにはどうしたらよいか?