『科学は不確かだ!』(R.P.ファインマン著、岩波現代文庫)を読む。
1963年4月にワシントン州立大学で行われた著者の三夜連続の講演録で、I.科学の不確かさ、II.価値の不確かさ、III.この非科学的時代からなる。いずれも科学に対して一見否定的な題名がついているが、そうではなく科学という営みに何ができて何ができないか、科学的なものの見方とはどういうものかについてまさに科学者らしい見解を披露している。講演が行われたのは米ソ冷戦のまっただ中の時代で、当時核戦争による人類滅亡が恐れられていた。これは過去のものとなったが、本書を読んだのは東北関東大震災により福島第一原発による放射能漏れの事故があったからでもある。ファインマンは人間の弱さを認めつつこう述べる。

人間は決して正直でないことを僕は指摘したいと思います。科学者だってちっとも正直ではありません。まったくしようのないことです。誰一人として正直な者はいないんですから。ところが人は普通、正直でない科学者を正直だと思いこんでいます。だからなおさら困るのです。ここで僕の言っているのは、嘘を言わずに本当のことだけを語る、という意味の正直ではありません。自体の全体を明らかにするという意味の正直さです。理性のある人が自ら決断をくだすために必要な情報を、すべて明らかに示すことこそ、真の正直と言えましょう。

といい、この後に核実験による放射能の話がくる。
ものごとを科学的に話すということはどういう話し方なのか、著者はこのことを聴衆に分かって欲しかったに違いない。

科学は不確かだ! (岩波現代文庫)

科学は不確かだ! (岩波現代文庫)