『破壊する創造者』(フランク・ライアン著、早川書房)を読む。
原題は『Virolution』で、ウイルスと進化を合わせた造語になっているように、ウイルスが生物の進化に大きく寄与していることが中心に取り上げられています。著者は医師でもあるのですが、ウイルスを従来のように私たちにとっていぶつであり、敵である存在として狭く捉えるのではなく、共に影響しながら進化してきたパートナーのようなものとして理解することが必要であると主張しています。実際私たちのゲノムは機能性遺伝子をコードする領域より機能不明な領域の方がほとんどで、その中にはウイルスと類似した配列が多数存在しています。ヒトの内在性レトロウイルスHERVは疾患にも関与していることは容易に想像がつきますが、胎盤組織でシンシチウムを形成する際にHERVが関与していると考えられる知見などを見ると、胎盤保有するように進化した哺乳類とウイルスの共進化があったのだろうと思え、狭い意味での突然変異と自然選択だけではない進化のメカニズムの存在に自然の深淵さを感じます。その他の進化のメカニズムとして、異種交配の話題も取り上げられており、正倍数性交配種が動物にも存在すること、ヒトの出現と進化(チンパンジーとの分岐やネアンデルタール人との関係)が語られています。最後には今話題のエピジェネティクスに関する研究の知見が紹介されています。一つ一つの細胞で起きる突然変異に加えて、環境の影響によるエピジェネティックな変化も考えるとまさに私たちの体は、無数の個別性が複雑に組み合わさってできた脆い存在だということになります。生物の個体の独立性という概念を大きく揺るがせ、考えさせる一冊でした。
医学生物関連の術後がかなりたくさん出てきますが、巻末には用語解説もついています。