『不可能、不確定、不完全』(J.D.スタイン、早川書房)を読む。
ある問題が解決できないこと、ある疑問に対して答えられないこととはどういうことかについて数学者の立場から例をあげながら述べていく本。ある問題が解決できない場合、一つにはそれが特定の枠組み、前提の中で考えている場合(立方体倍積問題、五時方程式の一般解)がある。これは使う手段が限定されているから。決定不能な命題についてもこの範疇に入ると著者はいう。そして二つめの場合は、私たちが十分な情報を持っていないことから解けないという場合。これについてはそもそもそうした情報がない(量子力学における速度と位置の決定)、正確な情報が得られない(カオス現象)、情報が多すぎて手に余る(多項式時間で手に負えない問題)がある。三つ目は解決方法がないと証明されている問題(アローの定理)。四つ目は複数の正解がある問題(平行線公準の解決)。
 たとえ完全な回答が得られない場合でも必要な精度で近似解を得られれば、それで十分ということもあるのだと著者はアドバイスしてくれる。知り得ないことがあったとしても悲しむべきとは限らない。まだそれを正確に記述する方法を私たちが知らないだけかもしれないのだから。
 取り扱っている範囲が広く、自分にはすべてを理解できるわけでもないのだけれど、「わからない」ということにぶつかったときに冷静にその「わからなさ」とは何かと問うことのたいせつさを教えてくれる。

不可能、不確定、不完全―「できない」を証明する数学の力

不可能、不確定、不完全―「できない」を証明する数学の力

絶望の渦中に君がいてもなお空の青さを忘れるなかれ

明日は来る闇深ければなお光る明日は来るから信ぜよ明日を

祈るのみ祈ることしかできぬ吾闇に光をもたらし給え

蒼穹は悲しみに満ち静かなり楽音無き鎮魂の曲