『老化の進化論』(マイケル・R・ローズ著、みすず書房)を読む。
ショウジョウバエの選択育種により通常の寿命以上に(約10%)長生きさせる個体(メトセラバエ)を選択することに成功した進化生物学者による研究の軌跡を記した本。著者は進化のしくみを利用すればヒトの寿命の延長と老化の先送りを阻む障壁(”徐々にせりあがる死の壁”)は理論上は存在しないと主張する。

自然選択の力のタイミングを決めるものは何か? その答えは、集団内で最初に生殖が起こる年齢だ。その年齢より前であれば力は強い。生殖が先送りになれば、力が衰えないまま長く続く。早い時期に生殖を行う集団では、自然選択の力は早い時期に弱くなる。それとは対照的に、生殖を行うときに年老いている集団では、生殖がはじまるまで自然選択が強力に働いている。もし、代々引き続いて生殖を遅らせることで自然選択の強い力が高齢期まで保たれていれば、選択によって寿命は延び、生殖可能な期間も長引くはずだ。

しかし老化に関わる遺伝子は数多くあり(「多頭の怪物」と彼はいう)、現時点では老化を先送りするための実用的な方法はない。しかし著者はその希望はあるという(「長い明日long tomorrowは必ずやってくる」と)。本書ではその具体的な内容については詳述されていないが、その面白さは彼の研究の道程がさまざまなエピソードとともに語られているところにある。随所に登場する著名な科学者たちの彼からみた描写や、老化の研究プロジェクトを推進するための苦労や、著者の辛辣なコメントが研究生活の臨場感を伝えていてぐいぐいと読ませる本となっている。

老化の進化論―― 小さなメトセラが寿命観を変える

老化の進化論―― 小さなメトセラが寿命観を変える