『氷』(アンナ・カヴァン著、ちくま文庫)を読む。
序文に紹介されていますが、本作はスリップストリーム文学というカテゴリーに分類されるそうで、”予想を超えた事態や偶然の出来事の連鎖のうちで語られるストーリーは、実質的にプロットを欠いて”いると書かれているように、主人公は極寒の異国に少女を探しに訪れ、そこを支配している長官との間に戦いが、そして当の少女の間でも葛藤を繰り広げるという展開が次々と繰り広げられます。この脈絡のなさには読んでいて少し辟易しますが、この物語の主人公は舞台となっている氷であり、その崇高さの中で踊っている三人は、あくまで添景なのだと考えると次の小説の最後の文章にも妙に納得してしまいます。
「私にはわかっている。逃亡の道はない。氷から、私たちを最後のカプセルに包み込んでゼロに近づいていく時間の残余から、逃れるすべはない。」